第40章 旗
「ボクと共に、地獄に堕ちてよ。姉様」
天が鬼の姿を保ったままであったことに、今更気付く。
「志摩子!!」
斎藤が叫んだ時には、天が志摩子の腕を掴んで大きく窓の外へと放り投げた。投げ出された志摩子の身体は、そのまま緩やかに窓の外へと落ちていく。
「志摩子――ッ!!!」
斎藤が駆け出そうとした時、部屋に飛び込んでくるような襖をぶち破る凄まじい音がする。同時に、一線の刃が容赦なく天の首をすっ飛ばした。斎藤が何事かと目を見張れば、鬼の姿を纏った風間が現れた。
「風間……っ」
「人間風情が、羅刹とはいえ鬼とは違う。そこで黙って見ていろ……っ」
窓の外へと飛び出そうとする斎藤の襟元を引っ掴んで、部屋の中央へと風間は投げ捨てた。すると何の躊躇いもなく志摩子を追うように、風間が窓の外へと飛び出した。
落下する自分の今を感じながら、志摩子は「ああこれが罰なのだろうか」と最後に見た天の憎悪に染まった顔と斎藤の声を思い出す。
――それで全て、良くなるのなら。
生を諦めるように、目を閉じた。鬼と言えど頭から落下してしまえば一溜まりもないだろう。確実なる死を覚悟した。だが……。
志摩子の身体はふわりと、誰かにより抱きしめられる。驚いて志摩子が目を見開ければ、そこには志摩子を抱えたまま着地に備えている風間がいた。
「ち、千景様!? どうしてこんなところに……っ」
「お前は必ずこの俺が迎えに行く。そう言ったはずだ」
風間の着地点に、いつの間に揃っていたのか天霧と不知火が待ち構えていた。二人はしょうがねぇな、という顔で風間達が下りてくる手助けをする。二人の力により、受け止めてくれたお陰で無傷で着地することが出来た。