第38章 動
「僕はどうやら、この辺りが限界みたいだからね。一君に、僕の想いごと託すことにするよ。また何処かで会おうね」
「総司……っ!」
「斎藤、俺達も羅刹に見つかると面倒だ。先を急ぐぞ」
「……っ、わかった」
すぐさま二人は沖田を置いて、その場を立ち去る。斬りこんでいた男、土方は突然の沖田の登場に驚愕していた。それもそのはずだ、彼は松本の元を離れ行方をくらましていたはずなのだから。
「総司!? おま……っ、どうして此処に」
「それは僕の台詞ですよ、土方さん。近藤さんはどうしたんですか?」
「……っ、説明は後だ。今は目の前の敵だ!」
「はーいっ」
沖田の加勢により、先程よりも勢いを増して二人は羅刹を次々と倒していく。気付いた頃には大量の返り血を浴びて、二人だけがその場に佇んでいた。
沖田は刀についた血を払うと、崩れるようにその場に座り込んだ。
「総司! 大丈夫か?」
「……ええ、まぁ。で? どうしてこんなところに、土方さんが一人いるんですか」
「近藤さんは……戦の途中、逃げ場をなくした俺達を逃がすためだけに、一人盾となった。あの人らしい……最後だった」
「ああ、で? 近藤さんを置いて……土方さんは逃げてきたって言うのっ!!?」
がっと沖田が土方の胸倉を掴んだ。土方が抵抗しないのが、更に沖田の怒りを誘っていた。
「どうして、どうして近藤さんを置き去りにしたんですか!? 土方さんっ!!」
「仕方なかったんだ!! あの人が……あの人が決めたことなんだ。俺だって、どうしてこんなことになったのか……っ」
拳を握りしめ、ぐっと唇を噛む土方を見ながら沖田は乱暴に手を離した。自分の知らないところで、大切な人がいなくなってしまったのだ。口にする言葉など、そうない。辛うじて、沖田は一言発した。