第37章 幻
「ああそれと、逃げようとしても廊下には羅刹達がいる。身の安全のために、部屋にいた方がいいよ」
南雲はそれだけ志摩子に教えると、喉を鳴らしながら笑って襖を閉めた。
どうして風間が綱道達の意見に賛同しているのか、志摩子には到底理解出来なかった。風間の全てを知っているわけではなかったが、彼ならそんな愚かなことはしないだろうという、そういう自信はあった。
ふと、風間から志摩子へ贈られたという着物へと目を向けた。
「この色彩選びは、確かに千景様のもの」
そういえば、ランドンのところで身を置いている間、ずっと洋装だったせいで久しく着物に袖を通すことはなかった。着れるだろうか……とは思うものの、いざ袖を通してみれば案外着方は覚えているもので。
着付けが終わり、近くにあった鏡で姿を映せば見慣れた着物姿の自分が映っている。着物の生地は、やはり洋装よりかは重く。けれど上物なのか、肌触りも良くそれほど重みを感じなかった。
「真相を知るためには、やはり千景様に会うしかないようですね」
待つことには既に慣れている。
そっと襖を開いて、夜空を見つめる。三日月が怪しく闇を退きながら、仙台を照らし出していた。