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薄桜鬼 蓮ノ花嫁

第37章 幻



「大人しくしててよね、落とされたくないでしょ?」

「離して下さい……っ」

「逃げられたら溜まったもんじゃないからね」


 南雲に抱えられたまま、光が溢れる地上へと出る。地下で感じていたような息苦しさは消え、柔らかな空気が志摩子の肺を満たす。視線を周りに向け、所々に羅刹が控えているのが目に入る。此処から抜け出そうなどとは、甘いのかもしれない。

 最上階へと辿り着くと、広い部屋に入る。大きく開いた襖の向こうに外の景色が広がっていた。どうやら今は夜らしい。


「此処、仙台城を拠点に鬼の世を作ります。羅刹を筆頭にね……」

「羅刹……? 御冗談を。羅刹のような、鬼ではない紛い物を筆頭になど……綱道様は正気ですか!?」

「正気であれば、このようなことは考えないでしょうね。後に風間様も来ます。お二人は鬼の子を産み、そして新しい時代を統べる鬼神となるのです!!」

「千景様が、そのような愚かな行為を肯定されるはずがありません!」

「それはどうでしょう……?」


 にやりと綱道は不敵な笑みを浮かべ、仙台の景色を背に志摩子へと口を開く。


「風間様はこの計画に賛成して下さっていますよ? くくっ、全ての準備を整えるために貴方をわざわざ人間の元に置いて。新選組と言う名の、人間の元にね」

「……そんな、はずは」

「思い出してみてください? どうして風間様は、人間の元に身を置く貴方を迎えには来なかったのですか? 鬼の噂で聞いておりますよ。お二人は、千鶴の代わりに婚姻して子を産むつもりなのだとか。そのため、貴方は蓮水家を離れ風間家に身を置いていた。違いますか?」

「……っ」

「何も心配はいりません。風間様から、貴方を丁重にもてなすように言い使っております。どうぞ、この部屋でごゆるりとお過ごし下さい。それから、そちらに風間様から着物をお預かりしております。着替えておいて下さいね」


 襖を閉め、外の景色は閉ざされる。南雲は志摩子を降ろし、綱道と共に部屋を出ていく。

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