第37章 幻
「志摩子……?」
「どうして、そんな顔をしているのですか? 何か……悲しいことがあったのですか?」
「……っ、なんでお前はいつもそうやって……自分のことより人の心配なんだ。自分の状況を見たらわかるだろ!? 俺達がお前を牢に閉じ込めていることくらいっ!」
「そうですね」
「俺達を軽蔑したか? 新選組のはずなのに、お前にこんな酷いことをして!」
「平助様は、お優しいんですね。本当に酷いことをする人は、一々そんなことを口にしたりはいないものです。何か、理由があるんですよね? 大丈夫です、私は平助様達のこと信じておりますから」
「……ほんとさ、勘弁してくれよ……。志摩子がそんなんだから、一君も他の皆も放っておけないんじゃん」
泣き出しそうな声色でそう言いながら、藤堂は顔を伏せた。今の彼には、志摩子を逃がすことも出来ないのだろう。こうして山南の言う通り、志摩子を見張っているのがその証拠だ。しかし志摩子は自分が気を失う前に見た南雲のことを思い出した。
「南雲薫は、共にいるのですか?」
「千鶴と瓜二つの顔の男のことか? ああ、一緒だけど……。そっか、あいつがお前を浚った地用本人だっけ?」
「皆さんは、綱道様に協力をしているのですか?」
「そうだ。でも、俺はまだ協力しているつもりはねぇ。山南さんはどうか知らないけど。山南さんは、あれから変若水の研究に心酔していたからな。綱道さんに色々と協力して完全な変若水を作りたいんだろうさ」
「平助様は……山南様を止めるために、共に在るのですね?」
志摩子のその言葉に、一瞬藤堂はきょとんとするが気まずそうに大きく視線を逸らした。それだけで、そうなんだと……志摩子には知ることが出来た。