第37章 幻
「今すぐお前を助けてやりたいけど、今の俺じゃ無理だ。一君には……会えた?」
「いえ、会えていません……。ただ、総司様にはお会いしましたよ」
「総司に!? そっか、あいつ生きてたのか……よかった」
「ですが、羅刹になっていました」
「羅刹に……? そっか、あいつも一つの決断を下したってことか。いや、それでもまだ生きててくれるならそれでいいさ。とりあえず、時が満ちたら必ずお前を此処から出してやる。それまでは悪い、大人しくしていてくれ」
「わかりました。お待ちしています」
「大丈夫、きっとお前を助けてくれるのは俺じゃないから」
にこっと僅かに藤堂は笑みを浮かべて、志摩子から離れていく。牢の入り口付近の壁に、身体を預けて見張りに徹しているようだ。どうにか一人で抜け出せないものかと、辺りを観察する。
一度今の現状を整理し始める。
志摩子がいるこの場所は、どうやら仙台にある仙台城の地下らしい。理由はまだわからないが、南雲により浚われた志摩子は地下牢に閉じ込められていた。仙台城には、綱道達と山南達羅刹部隊が集っているらしい。綱道達の目的はわからない、けれど少なくとも山南は綱道に協力しているようだ。たぶん、その目的とやらに志摩子を使うつもりなのかもしれない。
あるいは、何かに対しての人質か。
そして、志摩子の知らない間に斎藤が何より大事にしていた新選組を、離隊していたということ。藤堂は志摩子との約束を守るために離れたのだと言っていたが、本当なのだろうか?