第35章 誓
「なぁに? 姉様」
無邪気に笑う弟が、時々恐ろしいと感じるようになったのはいつからだろう? いや、これはまだ……私の中では、序章に過ぎなかった。
「そのようなことを、無闇に言ってはいけませんよ。貴方達も、お喋りは仕事を終えてからになさって下さいね」
「……っ、失礼します」
侍女達がばたばたと走り去る。一人天だけは、つまらなそうに溜息を零していた。
「姉様はほんと優しいんだから」
「貴方は最近物騒なことばかり言い始めて、私は心配です。死んだ方が……などと口にしないで下さい」
「それもそうだね! ごめんっ、ボクってはつい姉様のことになると、かっとなっちゃうみたい」
「まったく……」
仕方のない子だ、と頭を撫でてやれば天の笑顔がそこにある。一先ずはそれでいい、それでいいと……思っていた。
とある寝付けぬ夜の事。地下の方から、唸り声のようなものが聞こえた気がしてふと瞼を開ける。私は寝床から抜けると、少しだけ羽織を着て部屋を出た。流石の夜中、寝静まっているせいかその声は……とても私の耳によく届いていた。
鬼の目は、夜でもとてもよく見える。そこに千里眼を加えて、私は声の元を探す。
千里眼は遠くのものを、見通す力を持ちそれは物理的な壁さえも超えることが出来る。つまり、地下へと目を凝らせばその状況をある程度"見る"ことができるというもの。
便利な力だと思われがちだが、見えすぎて困ることも稀にある。まだ上手く加減が出来ぬせいで、瞼を閉じていても向こう側が見えてしまうことがある。この力のせいで、私は普通の鬼よりもとても貧弱だ。早く力の流れを自ら制御できるようにしなければ。