第35章 誓
「では、行ってくるよ志摩子」
「はい! いってらっしゃいませ」
こうして玄関で兄を見送るのが、私の役目。女は家を守るのが役目だと、以前兄が私に言ったのを未だに覚えていた。
廊下ですれ違う侍女達が、時々噂する。私についての、奇妙は噂。
『今度の蓮水家の女鬼は、歴代一強く千里眼を引き継いでるらしいわね』
『あら、恐ろしい。全て見透かされぬよう、上手く隠さなくてわね』
『所詮蓮水の女鬼は、子を産み子孫を残すだけの道具に過ぎないですしね』
下品な笑い声が届く。私が近くにいるのを知って、大きな声で話すのだからとても質が悪いと思う。それでも私には、此処以外に行く場所もない。ただ時が過ぎていくのを、出来るだけ感情的にならず……大人しく従うしかなかった。
そんな時、決まって彼が顔を出す。
「あのさぁ、姉様の悪口言わないでもらえない? あんたらみたいなクズ、死んだ方が理解できる? ねぇ?」
「……っ、て、天様! も、申し訳御座いません!! 私達は別に志摩子様の悪口を言ったつもりでは……」
「蓮水家の女鬼といえば、今はもう姉様だけだ。てことは明らか姉様の悪口だよね? どう? 気分いい? そうやって人の悪口並べていたら、気は紛れるもんね?」
「……っ」
「天!」
私は思わず、彼へと声をかける。侍女達の驚いた顔も、同時に視界に入ったが今はそれどころではない。