第35章 誓
戦うことを選んだとしても、それでは私は千景様との長きに渡る約束を、裏切ることとなる。それだけは、あってはならないのです。鬼は、一度交わした約束はけして違えません。それが誇りでもあり、私の唯一の自慢でもあります。
ふと、幼い頃のことを思い出してみる。まだ私が……籠の中の鳥であった頃のことを。
◇◇◇◇
幼い頃、私は身体が弱くそれもあってか兄にいつも外に出るなと言いつけられていました。
「志摩子、あまり外に出ようなどとは考えるな。そんな身体で外に出てみろ、何かあった時どうする?」
「栄兄様、私は兄様の許可なく外に出るような聞き分けのない子供では御座いませんよ」
「ははっ、そうだったな。ところで、天はどうした? 姿は見えないようだが」
「えっと……私も今日はまだ、見かけてはおりません」
「そうか。あいつもそんなに身体が強い方じゃない、お前は奴の姉なのだからしっかりと見てやらねばいかんぞ。俺は今日も父様のところへ行ってくる。あの人ときたら、政治はまったく駄目だし他の四家に圧倒されてまともな発言一つできやしない。いい加減……蓮水を長を降りてほしいものだ」
「兄様?」
「志摩子には難しい話だったな、すまない」
兄の語る蓮水の現状とやらは、まだその頃の私には難しくて理解出来ぬことばかりでした。大人になるにつれ、徐々に兄の言っている言葉の意味を理解できるようになった頃には……その何もかもが終わっていました。
私が生まれた頃から、母はおらず。父の姿も知らぬまま、存在だけを教えられけれど一度も顔を見たことがない。父はとても忙しい方で、毎日蓮水の屋敷を空けているような人だった。父代わりのように、栄兄様だけが私の面倒を甲斐甲斐しくみて下さいました。