第34章 離
「やっと会えたね、千鶴」
「父様……!!」
「綱道、さん」
姿を見せた綱道は、にっこりと千鶴に笑い掛けた。しかし彼の傍には大量の羅刹隊が控えており、どんなに取り繕ってもこの羅刹を連れて着たのは綱道なのだろう。一歩千鶴達の方へ踏み出した綱道は、千鶴へと手を伸ばした。
「さあ、そんな人間達といつまでも一緒にいるのはやめなさい。私と共においで、千鶴」
「……父様、その羅刹達は……父様が?」
「ああそうだ。これもまた、お前の幸せのために一役買うおもちゃだ」
「……父様が描く私の幸せとはなんですか?」
「何を愚かなことを。親が子の幸せを願わぬわけがないだろう? 千鶴、お前は風間様の元へ嫁ぎ風間様と強い鬼の子を産むのだ! それがお前の幸せなのだ!!」
「……っ、お断りします!」
斎藤は抜刀し、千鶴を背に隠す。
「本当に愚かな子だ。羅刹隊! 小娘を生け捕りにしろ!! そして風間様へと献上するのです!」
「父様……っ!」
「雪村っ、今は逃げることが先決だ」
斎藤は千鶴の腕を掴むと、左手に持った刀で羅刹を斬り倒しながら道を開き、駆け抜けていく。鉄の香りが周囲を満たし始め、まるで狂気と地獄の渦中だ。二人は援軍を呼びに行った土方と合流するため、江戸を目指し無我夢中で走って行った。
新選組よりも強力な羅刹の力を得ている新政府軍、近藤はなくなくこの場を撤退する決断を降した。
こうして、新選組は何とか散り散りになりながら現在の屯所となる江戸の旗本屋敷にて、生き延びた者達は集まるのだった。