第32章 翼
互いに睨み合ったまま、動こうとはしない。出方を伺っているのだろう。天でさえも落ち着き払った様子で薙刀を構え、斎藤を見据えていた。
「姉様を、守る……ねぇ」
にやっと彼が笑った途端、先に踏み込んだのは天の方だ。斎藤は背に志摩子を庇いながら、真正面から薙刀の攻撃を受け止める。その隙に志摩子は斎藤の邪魔にならないようにと、後ろに下がった。斎藤は刃を払うと、瞬時に天の懐へと飛び込んでいく。直後、蹴りを食らわせようと天の足が伸びるがそれさえも見切っていたのか、斎藤は腹に一撃を食らわした。
「くっ……!」
「容赦はせん……。一人この新選組の屯所に入り込んできたのだ、此処で……仕留める!!」
無駄のない動きで確実に天を追い詰めていく。想像以上に重い攻撃に、天はだんだん後退し始める。鬼の姿を纏っているのにも関わらず、押し負けしているように思える。天の表情がだんだんと曇り始めた。
「調子に……乗るなよっ!!!」
かっと目を見開き、天は応戦し始める。先程とはまた違った気迫に、斎藤が一歩足を後退させた。志摩子達はただ息を呑んで二人の戦いの行方を見守ることしか出来ない。少しでも手を出そうものなら、容赦なく斬り捨てられるだろう。