第32章 翼
「おい! これはどういうことだ!!!」
突然、屯所内に響き渡る声。これは土方のものだ。天は軽く舌打ちをすると、大きく後退した。
「蓮水天っ!!」
「鬼の力はこんなものじゃない。お兄さん、それだけは覚えておいて。次は、殺す」
天は土方達に出くわす前にと、そのまま姿を消した。
廊下を走ってくる音が聞こえる、ようやく姿を現した土方は目の前の参上の唖然とした。それもそうだろう。自分がいない間に、多くの隊士達が殺され幹部である藤堂までも深手を負って倒れているのだから。
「これは……」
「歳三様! ご説明は後に。とにかく今は平助様の治療をさせて頂きたく思います! あの、山南様は見かけませんでしたか?」
「……いや、見てねぇ。とりあえず、平助を運ぶ」
「副長。俺は屯所内に敵が残っていないか、確認してきます」
「おう、頼んだ。山崎、千鶴、お前達も俺達と一緒に来い。志摩子一人じゃ平助を看てやれないだろう」
「了解しました」
「はいっ!」
それぞれ分かれると、己のやるべきことのため力を尽くす。天がいなくなったことで、屯所内は静寂を取り戻しかけていた。斎藤は残っていた敵の羅刹を、生き残っていた部隊の者達を集め殲滅に当たる。土方達は、別の安全な部屋で藤堂の治療と、まだ生きている者達の確認を急いだ。
程なくして、原田と永倉達が戻ったことで事態は急速に鎮火するのだった。
◇◆◇
いつもの部屋に幹部達が揃うと、土方が一番に口を開いた。