第31章 絆
「私は確かに守られてばかりです、何処に居ても、何処に行こうとも。私の力で守れるものは、精々自分の意思くらいしかありません」
志摩子を支えるように、斎藤も立ち上がり互いに寄り添う。
「自分では何も守れないのだと、諦めてしまえば心は楽になるのでしょう。でも、もうやめにしたんです」
顔を上げた志摩子は、今までで一番気高くそして、力強く見えた。
「かっこ悪くても、情けなくても、私は生きているのですから。必死に足掻いて足掻いて、大切な人を守るために戦おうと決めたのです。そのためなら、多少の怪我だって気になりません」
志摩子の決意を傍らで聞きながら、斎藤はそっと彼女を片手で己の胸に抱いた。
「一様……?」
「俺には、守りたいものなどないのだと思っていた」
銀色の刃が、震えることなく天を捉える。
「俺には守るべきものがある。それは新選組と、その仲間達のこと。風間千景に、俺の剣が軽いのは俺に守り抜くべき者がいないからだと言った。最初、その意味を俺は理解できなかった。そして、副長に守りたいものはないかと聞かれ、その時からずっと俺の守りたいものを考えていた」
斎藤の瞳が、志摩子を見つめる。志摩子が切なく見つめ返せば、斎藤は困ったように微笑んだ。
斎藤はもう一度、確かめるように志摩子の身体を強く抱いた。離さないように、離れぬように。
「俺は、志摩子を守りたいと思う。離れて初めて、俺は志摩子の存在に救われていたのだと、気付かされた」
天の表情がどんどん曇り、やがて強く眉間に皺を寄せ始める。
大切だと気付ける者、大切だと気付けぬ者、何処まで行けば誰かを想う自分に出会えるのだろうか。人は迷う、無数の選択肢を用意されこれでいいのかと迷い、時には過ちを繰り返す。
その度に、大切な誰かの手に気付かされるのだ。己が求めているものに。
「だから俺は、必ず志摩子を守り抜く。お前に彼女は、けして渡さんっ!!」
彼の言葉に、嘘偽りはなかった。