第31章 絆
「そんな……っ」
「ねぇ、姉様。姉様が鬼の姿になったら、その力も更なる進化を遂げるのかな?」
「貴方には関係ありません!」
「そう。姉様、ボクと一緒に来る気にはなった?」
「私は、誰の誘いも受けません!! 貴方と行く気もありませんし、蓮水家に戻るつもりもありません!」
「……ボクは家に帰るんじゃない。姉様と共に、ボク達だけの家に帰るんだよ」
躊躇なく、天は薙刀を振り上げた。
「ボクのものにならない姉様なら、死んじゃえ」
剣は、振り下ろされた。
「志摩子君……っ!! 逃げろ!」
山崎の声も、聞き入れたところで最早志摩子に避ける猶予はなかった。
鮮血が舞う。
赤、紅、血。闇夜に咲いた赤い花は、大きく崩れ落ちていく。
志摩子の、目の前で。
「どう……して……」
靡く茶色の髪、派手な装い。見間違えるはずがない、忘れるはずがない。志摩子は、その者の名を叫んだ。
「平助様ッ!!!」
志摩子を庇って、藤堂が間一髪彼女を抱きしめながら床を転がった。はっと我に返り顔を上げた志摩子は、ぐったりと倒れ込む藤堂を見て目を見開いた。彼を中心とするように、血だまりが広がっていた。
「志摩子……だい、じょうぶ……か?」
「平助様! 口を開いてはいけませんっ」
背中を大きく深く斬られた彼は、志摩子が慌てて着物の裾を裂いて必死に止血しようとしても、止まらない。少しずつ失われる彼の体温に、志摩子はただ焦るばかりだ。