第30章 劔
「はい、あちらの方角へと後退して行ったようです。南雲薫、と名乗る者達と一緒にいました。そして、羅刹と名の付く兵を連れて」
「羅刹……? 綱道さんは、新選組から姿を消してそれでもなお、薬の研究をしていたということでしょうか」
「山南様、とにかく今は蓮水天から逃げることが先決です」
「……逃げる?」
山南の髪が、みるみる内に白髪に染まる。
「誰が逃げると? 私は羅刹達を連れて、綱道さんを追いかけてみます。山崎君は、土方さん達が戻るまでなんとしても屯所を死守するのです」
「了解です」
「山南様!!」
「貴方は黙っていなさい!!」
「……っ」
山南はすぐに背を向け、志摩子達から離れていく。志摩子の様子を気に掛ける山崎は、志摩子の肩にそっと手を置いて口を開いた。
「此処は新選組の屯所。副長がいなくとも、我らも立派な新選組隊士。敵に背を向けるわけにはいかない。それよりも、今外に出ている隊士達の帰ってくるこの場所を守ることが、俺達にとって一番大切なことだと俺は思う」
「命は一つなのですよ!? 失ってしまったら、もう戻ることはありません!!」
「後悔して生きるくらいなら、俺は死ぬ」
山崎の覚悟は並大抵のものではない。何を聞かされても、言われても彼はきっと決意を曲げないだろう。志摩子はぎゅっと唇を噛んで、苦渋の決断を降す。