第30章 劔
南雲は志摩子から一歩距離を取ると、志摩子の顔色を伺うように怪しく笑いかけた。
「知らなかったんですか? ふふっ、それでも貴方……蓮水家の娘なんですか? 何も知らされていないなんて、よっぽど貴方の事を誰も頼りにしていなかったのでしょうね」
「……言いたいことは、それだけですか?」
「あら、結構強気なこと」
「私は自分がどれほど頼りない者であるか、一番知っています。今更他人に指摘されたくらいで、何も思いません」
「そうでしたか。では、先程のお話でご理解頂けたと思いますが、護身鬼である限りその者に個々の幸せはありません。永遠にそれに縛られ、生き続けるしかない。それがどれほどの苦痛か、貴方にわかりますか?」
志摩子は押し黙るしかなかった。わかるはずもない、自分は守られている側にいて、守る側の苦労も心中も知ることは出来ない。答えない志摩子に、南雲は意地悪く質問した。
「貴方は天の他に、誰が護身鬼かご存知ですか?」
「……知りません」
「知りたいとは、思いませんか?」
「貴方に教えられることは、何もありません!!」
「……本当に?」
自分を守ってくれる存在、護身鬼。存在を知り、相手を知りそれで今の志摩子に何が出来るというのだろうか。千姫との会話を思い出しながら、今はこの状況を打破することだけを考え始める。今何を考えた所で、この状況を変えなければどうしようもないのだから。