第30章 劔
「ところで、千鶴は何処か知りませんか?」
「千鶴様……? もしも私が知っていたとして、話すと思いますか?」
「そんな高圧的な態度を取られるとは、残念ですよ? この屯所内にいる隊士達が、大切ではないのですか?」
「……っ、今千鶴様はいません。外に出ておられます」
「そう。なら私のやるべきことは、今はなさそうですね」
立ち去るのか、と思いきや。南雲は突然、着物を勢いよく脱ぎ去った。何事かと思えば、そこから現れたのは男の格好をした少年の姿。
「これが本来の、僕の姿だ。蓮水と言えば、かなり大きな家柄だ。そんなあんたを殺したとあれば、南雲家も少しは僕を認めてくれるだろう」
「……ッ!」
腰にさしていた刀を南雲は抜くと、刃を志摩子へと突き付ける。
「そう、僕はね……千鶴と双子の兄妹で……あいつの兄なんだ! どう? 驚いた?」
「どうしてこんな真似をするのです……っ」
「最初は千鶴を連れ戻せればそれでよかったんだけど、気が変わった。あんたを殺しておけば、僕がこの屯所に忍び込んだこともばれずに済むもんね。一石二鳥だとは思わない? 蓮水家の柱を、崩すきっかけにもなる……!!」
勢いよく振り上げられた刃に、志摩子は目を瞑ることしか出来なかった。恐怖よりも先に、動揺と混乱が志摩子を支配していた。逃げるための足は、震えて上手く動かせない。