• テキストサイズ

薄桜鬼 蓮ノ花嫁

第29章 鶴



「それとも、私が怖いですか?」


 まるで志摩子の心情を読み取るかのように。蛇のように山南の言葉が、志摩子の全身に纏わりつき締め上げるように。息が苦しくなっていく。


「山南様、貴方は私に……何を手伝わせるおつもりなのですか?」

「いい質問ですね。これが何なのか、わかりますか?」


 山南は机の上に置いてあった、赤い液体の入った小瓶を見せた。


「……変若水、ですね?」

「その通りです。ですがまだこれは、完成とは言えません。私は自ら羅刹となり、ずっと考えていました。完全なる鬼と同じ力を羅刹に与えるためには、一体何が必要なのか。そして何が足りないのか。私は、思いついたのです」


 山南の手が、志摩子へと伸ばされる。けれど志摩子は反射的に手を避け、一歩後ろへと下がった。山南は怪しい笑みを浮かべながら、志摩子をその瞳の中に捉える。


「貴方は……鬼だそうじゃないですか。それも、人間の血が一滴も交じっていない、純血の」

「……そう……ですが。それが、どうかなさったのですか?」

「ならば私達にあって、ないもの。それは……鬼の血ではないでしょうか?」

「……ッ!!」


 みるみる内に、山南の髪が白髪へと変わり赤い瞳へと染まる。一瞬で身の危険を感じた志摩子だったが、後ろにあるのは羅刹隊を閉じ込めている檻。背後を一瞥すれば、こちらへと彼らが手を伸ばしているのが見えた。下がり過ぎても危険だ。

/ 359ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp