第29章 鶴
「それとも、私が怖いですか?」
まるで志摩子の心情を読み取るかのように。蛇のように山南の言葉が、志摩子の全身に纏わりつき締め上げるように。息が苦しくなっていく。
「山南様、貴方は私に……何を手伝わせるおつもりなのですか?」
「いい質問ですね。これが何なのか、わかりますか?」
山南は机の上に置いてあった、赤い液体の入った小瓶を見せた。
「……変若水、ですね?」
「その通りです。ですがまだこれは、完成とは言えません。私は自ら羅刹となり、ずっと考えていました。完全なる鬼と同じ力を羅刹に与えるためには、一体何が必要なのか。そして何が足りないのか。私は、思いついたのです」
山南の手が、志摩子へと伸ばされる。けれど志摩子は反射的に手を避け、一歩後ろへと下がった。山南は怪しい笑みを浮かべながら、志摩子をその瞳の中に捉える。
「貴方は……鬼だそうじゃないですか。それも、人間の血が一滴も交じっていない、純血の」
「……そう……ですが。それが、どうかなさったのですか?」
「ならば私達にあって、ないもの。それは……鬼の血ではないでしょうか?」
「……ッ!!」
みるみる内に、山南の髪が白髪へと変わり赤い瞳へと染まる。一瞬で身の危険を感じた志摩子だったが、後ろにあるのは羅刹隊を閉じ込めている檻。背後を一瞥すれば、こちらへと彼らが手を伸ばしているのが見えた。下がり過ぎても危険だ。