第29章 鶴
「貴方の血を、ほんの少しでいいんです。私に……くれませんか?」
「お、お断りします」
「新選組のためなのですよ?」
「……それでもっ、お断りします! そんなこと、歳三様は望んでいらっしゃらないと思います!」
「彼はまだ人間ですからね。私達の気持ちは、彼にはわからないでしょう。何度血を欲して、狂いそうになったことか。その苦痛に耐え、それでも刀を握る私の気持ち……貴方にも、わからないでしょう?」
がっと、山南の手が志摩子の首を掴み締め上げた。
「くっ……あ……ッ」
「もういっそ、貴方も羅刹にして此処へ閉じ込めて研究しますか? そうすれば、もしかしたら羅刹なんかよりもっと凄いものが完成するかもしれない!!!」
「……やめ……てっ……」
「さあ、志摩子さん。貴方の血を……ッ!!」
志摩子がぎゅっと目を閉じた途端、急に山南の手が緩んだ。驚いて目を開ければ、山南が目の前で気を失い倒れていた。
「大丈夫だったか?」
蝋燭が不意に消え、部屋は闇へと包まれた。そのせいで、助けてくれた相手の顔を確認することが出来ない。
「だ、大丈夫です。えっと……どちら様、でしょうか?」
「……」
「もしかして……一様、ですか?」
彼は答えない。代わりに腕を掴まれた。志摩子は一瞬山南かと思い、抵抗しようとするが「安心しろ」と山南ではない声が聞こえて来たので、大人しくその手に従うことにした。
手を引かれ、飛び出した先は見慣れた屯所の庭だった。急に眩しい太陽の光が差し込んできて、志摩子は思わず目が眩みそうになるのを感じていた。