第29章 鶴
部屋へとつけば、辺りは大量の書物と薬品に匂いに満ちていた。何処となく空気が淀んでおり、部屋の奥まで進むのを思わず躊躇ってしまいそうになる。
「志摩子さん、どうぞ奥までお入り下さい」
「あ……はい」
奥へと足を進めると、何か檻のようなものが志摩子の視界に入ってくる。目を凝らし、正体を確認する。すると……山南が後ろから蝋燭を持ち、彼女に見えるようにと辺りを照らし始めた。
正体を確認した時、志摩子は強張った表情で勢いよく振り返った。
「山南さん……っ、これは!?」
「見ての通り。羅刹に堕ち、正気のない元隊士達です」
白髪の髪、赤い瞳。ぎらついては、獲物を探す獣のようにゆらゆらと身体を揺らしていた。
「これは……一体」
「彼らを外に一度出すと、大変なんです。何せ理性が既にないのですから、私の言葉も彼らには届きません」
そっと、山南は志摩子の肩に手を置いた。どうしてだろうか、いつもの彼であるはずなのに志摩子は恐怖を覚えずにはいられなかった。びくりと、身体も強張る。
「怖いですか? 彼らが」
顔を上げて、もう一度彼らを視界へと入れる。怖いかという問いに、志摩子は答えられなかった。怖い? 何が怖い。正気を失った彼らが? それとも、自分を此処へ連れてきた山南に対してか。