第28章 鬼
伊東派は新選組に、明らかな敵対行動を取ろうとしていた。伊東は幕府を失墜させるために、新選組が幕府の命で極秘で進めていた、羅刹に関する情報を公表しようとしているらしい。そして、同時に局長である近藤の命を狙っていた。
新選組が取るべき行動は、もう決まっていた。
伊東を殺す他、今の彼らに道はなかった。そして伊東派の元へ、自らの意思で向かった平助もまた。刃向うようなら斬る他ないと、土方は全員にきつく言った。
次の朝を迎え、伊東暗殺計画が始動する。そのために、近藤と土方が自ら重い腰を上げ伊東の元へと向かうこととなる。彼らの計画はこうだ。
近藤、土方が伊東へ長州の動向調査の依頼をしに向かう。そして伊東を酒に席に連れて行き、鱈腹飲ませた後、控えている新選組が斬りにかかるというもの。伊東派との戦いは、きっと避けられないだろう。だがこれも、新選組のため。
「一様、千鶴様。どうか平助様を……連れ戻して下さいませ」
「出来るだけのことはやろう」
「志摩子さん、屯所に残して行くのは心苦しいのですが……山崎さんもいます。どうか、待っていて下さい」
「はい、お二人の帰りと……平助様を含めた新選組の皆様の帰り、心よりお待ちしております」
今日だけは、複雑そうな笑みと共に”いってらっしゃい”と新選組を見送った。後は屯所で待つだけなのだが、どうしたものか。志摩子は一人、何をしようかと悩みながら屯所の中へと戻ろうとする。
「志摩子さん」
そこへ、山南の声が彼女を引き留めた。志摩子が振り返れば、太陽を鬱陶しそうにしながらも、いつもと変わらない笑みを浮かべながら近付いてきた。
「山南様、どうかなさったのですか?」
「志摩子さんは今、お時間はありますか?」
「ええ……まぁ。家事も済ませてしまって、時間はありますが」
「それはよかった。少し、お手伝い頂きたいことがあるのです。一緒に来てはもらえませんか?」
「構いませんが、何をしたらよいのですか?」
「……来て頂ければ、わかると思います」
山南に連れられ、志摩子は山南がいつも変若水の研究に使っている部屋へと向かって行った。その様子を、山崎だけがじっと監視していた。