第28章 鬼
「え、あ、あの……」
志摩子がそう戸惑っていると、いきなり襖が開かれた。
「副長、戻りました」
「おう、斎藤か。ご苦労だったな」
「え……?」
そこに現れたのは、久方ぶりに見る斎藤の姿だった。斎藤は志摩子へと視線を向けるが、すぐに目を逸らしその場に腰を下ろすと土方へと向き直る。
「伊東さんの件ですが。どうやら近藤局長の暗殺を目論んでいるようです」
「何? 近藤さんの……。すぐに幹部を集める、話は改めてそこでしよう」
「わかりました」
「志摩子、お前は部屋に戻れ。いいな」
「……はっはい」
斎藤の横を通り抜け、志摩子は慌ただしく部屋を後にした。彼女がいなくなった部屋で、斎藤は走り去った志摩子の背中を見つめながら口を開いた。
「志摩子と、何をなさっていたのですか」
「斎藤、お前は知らなくていい事だ。口を挟むな」
「……申し訳ありません。では、後ほど」
頭を下げ、斎藤も土方の部屋を出た。すぐにでも志摩子を追いかけたい気持ちが、斎藤にはあった。土方が話さないというのなら、彼女自身に問えばいい。けれど……。
「離れている間に、お前は……変わってしまっただろうか」
二人の間には、見えない距離が出来ているような気もした。
◇◆◇
斎藤が新選組に復帰することとなる。元々彼は、伊東派についていたわけではなく、土方の命を受け間者として潜伏していたのだ。それはつまり、伊東派の動向を探るためと彼らの真の目的を知るためであった。
幹部達はいつもの部屋に集まり、会合を開いていた。