第28章 鬼
「私は……私は、千姫様とご一緒に参ることは出来ません」
「……理由を聞いても、いい?」
「恩義は確かにあります。ですが、私が此処に居たいと望むのはそれだけではないのです。私にも出来ることがあると教えてくれた、そして自分の足で歩くこと。此処でしか、出来ないことだと思うのです。それに今此処を離れるということは、逃げ出すことになります。私は何も知らずに今日まで過ごしてきました。ならば……ならばせめて、蓮水の者として私は逃げずに立ち向かおうと思います」
「危険しか、ないとしても?」
「自分の運命です。己で断ち切り、道を開きたいと思います。ご心配頂きありがとうございます」
志摩子が深く頭を下げれば、もう千姫には何も言い返す言葉がなかった。彼女が決めたことならばと、少しだけ溜息を漏らした。次に、千姫は千鶴へと視線を向けた。
「千鶴ちゃんはどう?」
「……すみません。私も、此処に残ります。新選組の皆様と共に、この道を進みたいんです」
「そっか。あーあ、二人に振られちゃったなぁ。仕方ないか……。話はそれだけ! お邪魔して申し訳なかったわね」
「そうだな、いい加減尋ねに来るのはやめてもらいたいものだ」
「……一つだけ忠告しておくわ。蓮水は本当に底の知れない連中の集まりよ。気を付けて。それから……いつまで変若水を使って鬼の紛い物を作るおつもり?」
「……」
「言いたくないならいいの。でも、人は鬼にはなれない。忘れないで下さいね」
千姫は連れと共に、ようやく屯所を後にした。土方は二人に「話は済んだ、下がっていいぞ」と声をかける。千鶴は頭を下げ、早々に場を立ち去った。しかし志摩子はいつまで経っても、土方の部屋に居座り続けた。
痺れを切らした土方が、志摩子へと声をかける。