第3章 霧
「……斎藤様、なのですか?」
「……そうだ。志摩子、というのだな。あんたは何故此処にいる?」
「私は……」
「お前もしかして、あの風間って奴と知り合いなのか?」
「え?」
土方のその言葉に、志摩子は素直に反応を見せる。それ自体は勿論、悪いわけではない。だがこの場にいた誰もが、その志摩子の言葉に目を細めた。
「副長……」
「お前は黙ってろ。志摩子、とか言ったな。あの男のことを、知っているんだな?」
「……はい」
全てを把握することは、志摩子には出来ない。何故なら音を聞いてはいても、映像として風間と新選組につい今さっき何が起きていたのか知らないからだ。けれど音でだいたいはわかる、流れくらいは。
どちらにしても、今この現状がいいものではないことくらい、流石の志摩子でも理解出来た。
「悪いが、俺達と来てもらおう。知ってること、洗いざらい吐いてもらう。もしかしたら、池田屋に集まっていた不貞浪士達の仲間かもしれねぇからな」
「……! 確かに私は、千景様を知っております。ですが、彼が此処にいた目的もその……浪士のことも、私は何も知りません!!」
「詳しい話は屯所で聞く。斎藤、連れて行け」
「……御意」
斎藤は荒っぽく志摩子の腕を掴み上げると、その手を後ろ手に縛り志摩子の自由を奪う。
「斎藤様……っ」
「悪いが、こうなったからにはあんたには俺達と共に一緒に来てもらう。そこであんたの無実が証明されれば、すぐに解放される。だが……良い方には転ばぬと思え」
「……っ」
土方は雪村と沖田を気遣いながら、二人を連れて下の階へと下りていく。斎藤も志摩子を拘束したまま、それに続いた。
志摩子には、ただ不安だけが心の奥底まで絡み付く。
土方は志摩子の方を一瞥する。志摩子は顔を伏せ、唇を噛みしめていた。何かに耐えるように、そして堪えるように。それは涙か、恐怖か。それとも……もっと違う何かか。
土方の瞳は、いつまでも志摩子から離れることはなかった。