第3章 霧
「ひゃっ……!!?」
「……なっ」
それに驚き、思わず声を上げてしまった志摩子は目の前の状況に頭がついていかない。刀を持った見知らぬ男が、目の前にいる。恐怖より先に、混乱の方が大きかった。
何故この戸を開けたのが、風間ではない? どうして部屋の何処にも風間がいない? どうして……っ。混乱する志摩子をよそに、土方はゆっくりと切っ先を志摩子へと向けた。
「お前、何者だ……」
「……わ、私は……蓮水志摩子……と申します」
「何故こんなところにいる?」
「そ、それは……」
「あんたは……」
斎藤が沖田の様子を気にして、勢いよく部屋へと飛び込んでくる。しかし、その場にいた雪村や土方がいることに驚くよりも、いるはずのない人物の姿を目の当たりにして、その人物へと視線は釘付けになる。
斎藤の瞳には、いるはずのない、もう再び出会うはずもない……志摩子の姿がそこにあった。
「あんたがどうして、池田屋なんかに?」
「斎藤、お前……こいつの知り合いなのか?」
「知り合いというほどでは。つい先日、都で柄の悪い男達に絡まれていたところを助けただけです。後は、都を少し案内致しました」
「……もしかして、みたらし団子の女……か?」
「みたらし団子……」
志摩子はその言葉で、先日の出来事を思い出す。そして、斎藤へと視線を向けた。