第28章 鬼
「鬼の一族の中でも、蓮水は異質でした。代々千里眼を持つ鬼が生まれ、それを一種の巫女として崇め大切に守って来たそうです。ですが人間の魔の手に幾度となく襲われ、蓮水も一時は滅びの危機を迎えました。ですが……そこで生まれた志摩子さん。彼女は、歴代千里眼の持ち主の中でも、頭一つ抜け出た力を持っていました」
「私が……? 確かに千里眼なるものを持っていると、そう兄から聞かされたことはあります。ですがこれは、ほんの一瞬相手の動向の先を知るだけのもので……」
「本当にそうかしら? 貴方には、見ようとすれば相手の動きが止まって見えるのではない? だからこそ、ぎりぎりの攻撃を避けれることも出来る。何か心当たりはないかしら?」
千姫のその言葉に、志摩子の脳裏に初めて小刀を使って沖田を助けた時のことが浮かんだ。自分の中では、ほんの一瞬を読み取ったつもりでいた。しかし……確かに志摩子には見えていたのだ。
ゆっくりと、天の攻撃の先が。押し黙っていると、千姫は「心当たりがありそうね」と付け加えた。
「そのせいで、志摩子さんは長い間執拗に家に縛られ外の世界を見ることなく、今まで過ごしてきたのだと思います。純血の鬼ということもあり、蓮水は一番に志摩子さんを大事にしていたことでしょう。護身鬼、という鬼を生み出してまで」
「護身鬼……」
土方の唇がゆっくりとその言葉をなぞるように、零す。