第27章 滴
「なんですか、それは。おかしな人ですね……でも、私もそうかもしれません。一様が屯所からいなくなってしまって、いつも見慣れた背中がなくて……寂しいと。そう、思う日もありました」
「そうか……」
「あ、文! どうぞ」
「ああ、ありがとう」
斎藤は文を受け取ると、すぐにそれを読む。読み終わったかと思えば、部屋を灯していた蝋燭の火で文を燃やしてしまった。
「は、一様!? 折角の文に何を……っ」
「これは密書だ。他人に読まれては困る、だから燃やした。山崎と共に来たのだろう? ならば帰りも心配はないな」
「一様は……伊東様のところへ行かれたのですよね? 密書だなんて……どういうおつもりですか?」
「すまない。今はお前に、何も教えることは出来ないのだ。だがその時がくれば、お前にきちんと話すことも出来よう。それまで……待っていてはくれないか?」
「……はい、わかりました。待っていますね」
「……志摩子」
優しく斎藤の指先が、志摩子の頬に触れる。
「何かあったか? 浮かない顔をしている」
「……っ、そんなこと……ありませんよ」
「お前はいつも強がって、隠してばかりだな。俺には全て見せろ」
いつの間にか志摩子の瞳から、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。斎藤は何も言わず、ただ志摩子の冷えた涙を拭っていた。
「総司様が……っ、私のせいで怪我をしてしまったのです。私を守るためと……っ」
「総司が……。そうか」
「それで、怪我自体は深いというわけではなかったのですが、彼は前線から遠ざけるべきだと遠いお医者様のところへ運ばれました。確か、松本良順と仰る方のところへ」
「そうか……」
「天が、私を迎えにと襲ってきたのです。私に力があれば、総司様に怪我を負わせることはなかったはずなのに! それなのに!! 私は総司様に、お礼を言うことも謝ることも出来ませんでしたっ」
「それでお前は……泣いているのか」
「っ……」
斎藤は志摩子の顔を、自らの胸へと押し付けた。