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薄桜鬼 蓮ノ花嫁

第27章 滴



「そう……だったんですね。土方さんは、志摩子さんを……。そうですか」


 千鶴は少しだけ悲しげに顔を伏せた。それが何を意味しているのか、真相は千鶴にしかわからなかった。だが土方もそんな千鶴を見て、視線を泳がせては口を閉ざした。

 まもなくして、隊士達の手により沖田は屯所を離れた。そのことは、志摩子には伝えられぬままだった。



 後に土方の口から、志摩子に伝えられたがその頃にはもう、志摩子は何も言わなかった。ただ素直に現状を受け入れる姿勢を見せた。

 あまりに素直に受け入れるものだから、初めは誰もが志摩子の様子を心配し目をかけていた。だがそれも時が過ぎると共に、大丈夫だろうと執拗に彼女を気遣うのをやめた。


 そんなある日、土方は志摩子へと文を手渡した。


「志摩子、悪いがこの文を山崎と共に指定の場所へ届けてくれないか?」

「山崎様と共にですか? 構いませんが」

「おう、頼んだぞ。あ、中は読むなよ」

「読みませんよ!」


 珍しい土方の頼みに、志摩子は何故自分なのかと疑問に思うが、特に深い意味はないだろうと山崎と共に指定された場所へと向かった。


 町へ入り、人混みを掻き分け辿りついた先は、人気のない一軒の宿屋。


「志摩子君。此処から先は、君だけで頼む。この部屋に届けてくれればいい」

「えっと……この紙に書かれている部屋ですね? わかりました」


 宿の中へと入ると、とても静まり返っており人の気配がまったくしない。とりあえず不思議に思いながらも、志摩子は階段を上った。

 戸の前まで来ると、一度深呼吸をして声をかけた。

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