第27章 滴
「逃げることはいつだって簡単だ、誰にだって出来る。だがな、総司は逃げなかったしお前も逃げなかった。立ち向かってそれでも少し、相手の方が強かった。それだけだ……なら次は負けない様に強くなればいい。そのために、身体は大切だ」
「……はい」
「な? 少し休め。総司が起きた時に、元気な姿を見せてやるのが今やるべきことだ」
「そうですね……弱音を吐いてしまって、申し訳ありません」
「弱音なんて、誰だってあるさ。恥ずかしい事じゃねぇよ」
ぽんぽんっと原田が志摩子の頭を撫でてやると、志摩子は困ったようにぎこちなく笑みを浮かべた。今はそれでいい、原田は心の中でそう思うのだった。
原田の言葉を胸に、志摩子はようやく自分の部屋へと戻った。千鶴と同じ部屋、だが今彼女はいない。土方に呼ばれてから、姿を見ない。
気にはなったものの、志摩子は布団へと潜り込む。願わくば、目が醒めた時に元気な沖田に会えますようにと。
◇◆◇
土方に呼び出された千鶴は、彼の部屋を訪れていた。
「お呼びでしょうか、土方さん」
「ああ、入れ」
千鶴が戸を開け、土方の部屋へと足を踏む入れる。緊迫した空気が部屋を満たしており、心なしか千鶴のその空気にあてられ顔を強張らせる。土方は千鶴の様子を気に留めることもなく、彼女へと向き直ると口を開いた。