第27章 滴
「私はいつも無力です……皆様に守って頂くばかりで、何も……出来ていない。もっと、もっとしっかりした女にならなくてはと思うのに! 私が此処で出来ることは、あまりにも少なすぎる……っ」
「誰にだって、役割ってものがあるんじゃないのか? 例えば志摩子は、医学に関してはうちの中でも信頼がおけるほどだ。そういう面で、お前の右に出る奴はまず新選組の中でもいない。そこは誇れるところじゃないのか?」
「ですが……戦うことは、出来ません」
「刀を握るだけが全てじゃねぇだろ。どんな奴にも、そいつしか出来ないことがあるさ」
原田の言葉を頭の中で反芻させながら、志摩子は考え込んでいた。
「ただお前は刀を握ることがなかったってだけだ。そういう役割だっただけだ、俺達新選組が剣を握ることしか能がなかったように。戦えることが、何も偉いわけじゃない。誰かの役に立てるなら、それがどんなことでも俺は凄いことだと思うぜ」
「……左之様は、お優しいのですね。私に慰めの言葉をかけて下さるなんて」
「同情なんかじゃねぇよ。俺はそんなに暇じゃねぇし、口が上手いわけじゃねぇさ」
原田はぐっと立ち上がると、千鶴と同じような優しい笑みを浮かべて志摩子へと手を差し伸べた。
「大切なことは、逃げないことだ。逃げずに立ち向かおうとする意志こそ、最も大切なことだ。お前はあの場でけして逃げなかった。総司と共に戦った。それでいいじゃねぇか」
志摩子はゆっくりと原田へと手を伸ばす。原田は満足そうに志摩子の手を取ると、立たせるように引き上げた。軽々と引き上げられ、志摩子は少しだけ驚愕の色をみせていた。