第26章 命
夜が深くなる。月明かりが妙に眩しく思えて、志摩子は目を醒ました。すると、千鶴も同じく起きてしまったらしく布団から抜け出ていた。
「千鶴様……?」
「志摩子さんも起きてしまいましたか? どうしてでしょう、なんだが胸騒ぎがするんです」
屯所は怖いくらいに静まり返っていた。特に何か起きるわけでもなく、それでもただこれから何かが起きるのではないかと思わされるほどの静けさに、妙な違和感だけが纏わりつく。
気にしないで寝てしまえばいいものの、志摩子はその違和感を何処かで感じたことがあるような気になり、千鶴と共に起きていることにした。
――空気が一気に冷える。と同時に、襖が突如開け放たれた。
「え……? お、沖田さん?」
千鶴が沖田を目にし、目を丸くする。沖田はいつもの着物を身を包み、腰に刀をさしている。
「志摩子ちゃん、今すぐ僕と一緒に来てもらうよ」
「どういうことですか? 総司様」
「千鶴ちゃんは部屋で待機。すぐに源さんが来るから、絶対に部屋から出ないこと」
「沖田さん!? 急にどうしたんですか?」
「……鬼が来る」
沖田の言葉が風に乗って、闇夜を漂う。途端、門前の方で物凄い音が響き渡った。音からして、門がぶち破られた音だろう。
「時間がない。行くよ、志摩子ちゃん」
「総司様!? 何故私だけ……っ!?」
「事情説明は後。行く」
沖田は強引に志摩子の手を引くと、廊下を走っていく。先程の音で隊士達が起きたのか、皆刀を持って門前へと向かっていた。すれ違う隊士達を気にも留めず、沖田は一人志摩子を連れて屯所の裏へと来ていた。
裏庭には小屋があり、見た感じ物置小屋のようだ。
沖田はぎゅっと志摩子の手を握ると、そのまま小屋の中へと入っていく。