第25章 幸
「なら、どうするつもりなのかくらい答えなさいよ!」
「答えたところで俺のやるべきことは、何も変わらない。ならば語るべきことは、何一つない」
「やっぱりそういう考えなのね……。でもね、それでも私達は千鶴ちゃんも……そして志摩子さんも。貴方から守ってみせるわ」
「勝手にしろ」
それだけ告げると、奴らは姿を消した。俺は大きな溜息をついて、部屋へと戻る。天霧も俺を引き留めることはしない。
部屋に戻った俺は、頬杖をついて窓の外を見つめる。
どんな人間が現れようとも、どんな鬼が俺の前に立ちはだかろうとも。
俺だけがあいつを幸せにしてやれるのだ。
「あの斎藤という男……次に会った時は」
刀に手をかける。あの男につけられた借りは、きっちりと返すとしよう。空は既に群青色に染まり始め、何度目かの夜を迎えようとしていた。雲はない、きっと明日は晴れるだろう。
「俺がお前を、幸せにする」
もしも俺とお前の心が、違えて同じ時を過ごせなくなったとしても。望んでいた未来が交わらなくなったとしても、お前の心が……別の男を求め愛したとしても。
志摩子。俺はお前に、何度でもこの手を差し伸べてやろう。
お前は、幸せになるんだ。