第24章 春
「ほんと、食えない子ねぇ」
伊東の呟きは、蝋燭の灯りで照らされた部屋にのみ満ち、消えていった。
志摩子が外に出ると、永倉と斎藤が待っていた。
「志摩子ちゃん! 帰ろうぜ!!」
「はいっ」
永倉に肩を組まれ、一人騒いでいる声を聞きながら、志摩子は笑いながら屯所までの道を歩く。ふと近くにいない斎藤の姿を探せば、三歩前を歩いていた。斎藤の背中は遠く、手を伸ばせば届くはずだが何故だか今は届かないような気がした。
伊東の言葉に頷きも断りもしない彼を、心の何処かで心配していた。もしかすると……――
その瞬間は、唐突に訪れた。
◇◆◇
数ヶ月後、夜中の屯所内で変若水を飲んだ人間……"羅刹"が暴れ出し、千鶴を襲った。その場に志摩子も居合わせていたが、どうすることも出来ず。駆けつけた土方によって、処理される。姿を見せた山南も、千鶴が怪我をしていたせいで血の香りに狂い、事態は最悪の方向へと進む。
山南が生きていた。その事実を、伊東に知られてしまったのだ。
この事件をきっかけに、伊東の新選組を二つに割るという話は本格的なものとなり、近藤と土方に直接直談判する。事態だ事態だ、最早新選組側に伊東を抑制する力はなかった。
伊東と共に数人の隊士達と、そして……。
藤堂、斎藤が新選組を抜けること決断を下した。
桜が舞う。春が訪れ、新しい季節と共に変わっていくものが此処にある。
志摩子は一人、桜と同化するかのように呆然と花を見つめていた。