第24章 春
「志摩子……」
「平助様、ですね」
志摩子が視線を桜から、藤堂へと向ける。気まずそうな顔で俯く彼に、志摩子もまた言葉を失い同じく俯いた。
「そ、そんな顔しないでくれ! これが一生の別れってわけじゃねぇんだ、またいつか……何処かで会える」
「そうですね……。申し訳ありません、お見苦しい姿を見せてしまって」
「いんじゃねぇの。俺は志摩子のそういう素直なところ、結構好きだぜ」
にかっと笑う藤堂に、志摩子は困ったように笑い返す。離れてしまう、今日で共に過ごした日々が終わってしまう。これほど寂しいこともないだろう。
口にしたい言葉は沢山あれど、その中で口にすべき言葉は……たった一つしかなかった。ゆっくりと、志摩子は口を開く。
「平助様。思想は違えど、心は繋がっているでしょうか?」
「え?」
「互いを想う心、それは違えてないでしょうか!? それさえも、変わってしまわれましたか?」
「志摩子……。馬鹿だなぁっ! 心はいつでも、此処にあるよ」
藤堂は優しく志摩子の頭を撫でた。志摩子は必死に、潤んでしまいそうな瞳を堪えていた。それに気付いた藤堂は、ますます困ったように笑った。
「何が正しいか、どっちがいいかなんて俺にはわかんねぇけど……でも俺は伊東さんの全てが間違ってるとは思えないんだ。あの人なりの決意がある、信念がある。それがただ、新選組とは違っただけなんだ」
「……はい。わかっております」
「だからこそ俺は、伊東さんに着いて行く。そこで俺は、自分の思う正しさを見定めたい。俺の思う理想の世の中ってやつを、見つけたい。ごめんな、一緒にいれなくて」
「謝る必要など、ありません。どんなに遠く離れていても……私は、平助様の無事を祈っております」
「うん! 元気でな」
千鶴にも挨拶をしないと、そう呟いて藤堂は重たそうな足取りでその場を去った。再び一人になり、志摩子はもう一度桜を見つめた。