第24章 春
「貴方みたいな立派な考えをお持ちの女性は、初めてだわ! 意地悪なことばかり言ってごめんなさいね。私はこの世を変えたいと望み、剣を取った男ですわ。志摩子さんとはけして違う考えかもしれません、ですが貴方の言う通り私も戦い生きる身。だからこそ、時に厳しくも冷徹な言葉で真実を見抜く必要がある」
「……そうですね」
「でも真実は見抜かれないからこそ、価値があるのかもしれませんわ。貴方のように」
「は……い?」
「気に入りましたわ。やはり貴方は、私と共に統べるべき人間。共にいらっしゃいな」
「えっと……私は」
「返事は今すぐでなくとも結構よ……それから」
伊東は志摩子の手を離すと、斎藤と永倉へと視線を向けた。
「お二人も、是非私と共に来て欲しいと思っているの。どうぞ、考えておいて下さいね」
「……俺はあんたとは行かねぇ。どうもあんたらと飲む酒は、美味しくないらしくてね」
そう告げると永倉は一足先に、席を外した。斎藤は何も答えることなく、伊東に会釈だけすると小さく志摩子に「行くぞ」とだけ口にして永倉の後を追う。
志摩子は戸惑うように席を立ったが、足を進めることなく伊東へと向き直る。
「伊東様、私のような者をお誘い頂き本当にありがとうございます」
「どういたしまして、というべきかしら?」
「いえ……。あの、一つ申し上げても宜しいでしょうか?」
「どうぞ。聞いて差し上げるわ」
「この世に、善悪は御座いません。あるのは、人の心が生み出す善悪の定義のみ。間違いは何処にもない、あるのは……それぞれの正しさだけです」
「……新選組が貴方を置く理由、少しなら理解出来た気がするわ。違う形で、貴方と出会っていたら……貴方は私に着いて行くことをすぐに頷いてくれたかしら?」
「その時の私に、聞いてみて下さいませ」
志摩子は深々と頭を下げると、二人を追うように出ていった。
三人がいなくなった部屋で、伊東は一人席へと戻るとすっかり冷えた焼酎をお猪口に注ぎ、飲み干した。