第24章 春
「伊東さんよ、その話の何処に根拠があるって言うんだい?」
「あら永倉さん。彼女を庇うのですか?」
「庇うとか庇わないとか、そんなんじゃねぇ! 黙って聞いていれば、志摩子ちゃんに圧力でもかけて無理矢理引き抜こうって話か?」
「人聞きの悪い。私は同じ"仲間"として、きちんとした真実が知りたいだけですわ。勿論志摩子さんを悪く言うつもりもありませんし、仲間として信頼しているからこそ今一度不安要素を取り除いておきたいだけですわ」
「けっ……、どうだかな! 隊士でもない志摩子ちゃんの待遇が気に入らないんじゃねぇのか!? だがな、この子は別に甘やかされているわけでも何でもない。特別扱いだって、隊士の誰もしちゃいねぇ。それは勤勉な伊東さんならわかってるんじゃないのか!?」
永倉がだんだん熱くなり始める。伊東もこれには押し黙り、目を細め様子を伺うように口を閉ざした。永倉は続ける。
「この子は自ら医学を学び、俺達に自分の意思で尽してくれている。土方さんに言われたわけでもなく、家事全般をこなしている。自分の力で、隊士達に認めてもらえるように努力して、そうして今の待遇がある! 当然の結果だ」
「戦わなくてもいい、という待遇ですか? 新選組にしては、甘すぎるのではありませんか?」
「何……っ!?」
「志摩子さん、彼らが教えてくれないというのではあれば私が貴方に剣を教えましょう。ええ、私のところへ来ればそれは当然の教養として教えるつもりではありますわ。今の時代、女も戦えなくてどうします」
そうして伊東はふふっと怪しげな笑みを浮かべた。永倉の癪に障ったのか、彼が立ち上がろうとした瞬間……それを制したのは斎藤だった。