第24章 春
「攘夷の出来ない幕府は、もうお仕舞だとは思いませんか?」
「……」
「ふふ、志摩子さんは医学の他にもとても勤勉で在られると私は踏んでいます。私を前にしても物怖じしない、しっかりと向き合ってくれる姿勢。貪欲にやるべきことを求め、新選組のためにと懸命に尽す姿。素晴らしいと思いましたわ」
「ありがとうございます……」
「ですが、その力は新選組に使われるものであってはならない。そうも思います。志摩子さん、貴方……私と共に来る気はありません?」
「私が……?」
「そうです。土方副長の妹君と伺っていますけど……実際のところは、どうなのです?」
「……!!」
志摩子の背に、嫌な悪寒が走る。伊東はまるで見透かしていくように、志摩子をじっと見つめていた。本当に全て知っているかのような、恐ろしく冷たい瞳で。
「あのお堅い人が、果たして妹だからという理由で屯所に置くでしょうか? あまりにも話が上手いと思うんですよ。住む場所を戦で失い、京に逃げ延びて来た。そこで兄である副長殿に、囲ってもらっている……だなんて。出来過ぎているとは思いません?」
「……まるで、作り話のようだと?」
「その通り。貴方が屯所に居続ける本当の理由は、妹でもなんでもなく本当に帰るべき場所がないのか……それとも……貴方自身が何らかの理由で捕えられている捕虜なのか。どうです? 違いませんか?」
「……それは……」
すると、がっと大きな音を立ててお猪口を置いたのは永倉だった。