第24章 春
「志摩子。伊東さんには気を付けておけ」
「え……?」
「伊東さんの最近の動きは、知っているだろう? どうせ俺達にも引き抜きの話を持ち掛けるつもりだ」
「そんな……っ、でも私にそのような話をするとは思えないのですが!」
「お前は貴重な医学の知識と手段を持つ者だ。いつの時代も、医者は貴重だ。特に適切な手当てが出来る者となれば、一人は欲しいものだろう。志摩子を伊東派の専属の医者として迎え入れるつもりだろう」
「ですが……建前上、私は歳三様の妹なわけで。副長の妹となれば、そう安易なことをするでしょうか?」
「お前の同意は結局のところ、最終的には必要ないのだろう。何か脅せるものでも使って、お前を無理矢理引き抜くこともあり得る」
「……っ!」
「注意しておけ」
忠告だけ済ませると、斎藤は静かにその場から離れていった。
――夕刻、島原にて伊東、永倉、斎藤、志摩子を連れて飲みの席は設けられた。
あまりにも場違いすぎることに今更気付いても、志摩子にはどうすることも出来ない。隣に座ってくれている斎藤が、唯一の救いだ。
「志摩子さん。貴方、今の新選組をどう思います?」
「どう思う……とは?」
「彼らのやり方は、果たして正しいのでしょうか?」
「え?」
「幕府の命を受け、それに従う日々。今までの新選組ならば、想像もつかないことでしょう。何処にも属さず、誰にも命ぜられることもなく。それがあるべき新選組の形だとは思いませんこと?」
「は、はぁ……」
「私はね、今の新選組ではこの戦乱の世を越えることは不可能と考えているの。今こそ変わらなければならない! 立ち上がらなければ!! 幕府の犬に成り下がるべからず!」
熱く語り出す伊東に、志摩子はどう反応していいのかわからない。それでも伊東は、言葉を続けた。