第24章 春
――慶応三年一月。とある昼間のことだった。
「志摩子さん、いつもお仕事お疲れ様ですわ」
「……え? ああ、伊東様。とんでもないです、伊東様こそいつもお勤めご苦労様です」
「ふふ、ありがとうございます。ねぇ、志摩子さん。今夜私と一緒に軽く飲みにいきません? ああ、勿論二人きりとは言いませんわ。永倉さんと斎藤さんもお誘いする予定です」
「えっと……そのような場に、私が共にしてよいものなのでしょうか」
「あら、謙遜なさって。貴方の働きは隊士達からも聞いてますよ! 独学で学ばれた医学の知識が穂本当に豊富で、適切な手当のお陰で最近の隊士達の傷の治りも早いとか。もう立派なお医者様ですわね」
「恐縮で御座います」
「だから、こうして貴方を労いたいのよっ。来てくれます?」
「……伊東様が、宜しいのでしたら」
「では決まりね」
伊東に今夜、飲みに誘われてしまった志摩子は正直のところ乗り気ではなかったが、伊東といえば近頃他の隊士達を新選組から引き抜こうとする噂がある。以前斎藤から聞いた話も思い出しながら、これはある意味探りを入れる絶好の機会だと考えていた。
「志摩子、伊東さんと何を話していた?」
「一様……。実は、今夜飲みに行かないかと誘われまして」
「伊東さんに?」
「新八様と一様もお誘いする予定だと伺っておりますが……」
「ああ、先程そんな話をされた」
「お受けしたのですか?」
「隊の中でも、付き合いというものがある。それを果たしたまでだ」
なるほど、と志摩子はそっと微笑んだ。実に斎藤らしい答えだったからだ。志摩子がにこにこするものだから、斎藤は自分が何かおかしなことを言っただろうか? と小首を傾げていた。