• テキストサイズ

薄桜鬼 蓮ノ花嫁

第1章 檻



「志摩子様! 志摩子様はおられますか!?」

「……私は此処です。何事ですか?」


 ――志摩子。そう呼ばれた少女は桜から視線を外し、溜息と共に振り返った。そこに一人の女が息を切らしてやってくる。呼吸を整えながら、勢いよく顔を上げて志摩子へと迫った。


「大変でございます! 西国を統括している『風間』のご頭首、風間千景様がお見えになっております!! なんでも……志摩子様に、大事なお話があると仰られておりまして……私達侍女では、話にならぬと……」

「千景様が? わざわざこの北国を統括する鬼の一族『蓮水(はすみ)』の門を潜り、尋ねて来たということは……大四家に関わる用件なのでしょうか」

「いえ、そこまでは……何とも」

「わかりました。どちらにしても、私でなければ用件を申し上げて頂けないということですね。すぐ、参ります」


 志摩子はもう一度桜へと視線を向け、掌を下にかざす。乗せられていた花びらはひらひらと地へ落ちていく。

 琥珀色の長い髪がゆらりと、紫色の着物の上を滑り落ちる。紺碧色に染まった瞳が、真っ直ぐと前を見つめる。侍女の後を着いて行きようやく広間のような場所へ辿り着く。

 人払いがされているのか、その場にいたのは金色の髪に紅蓮の瞳を覗かせた男が一人、しかめっ面で座っていた。


「遅いぞ、志摩子」

「申し訳ありません、千景様。久方ぶりで御座います」


 志摩子は風間へと頭を下げた。侍女は軽く会釈をし、戸を閉めた。その場に残されたのは、志摩子と風間千景の二人だけとなった。志摩子はゆっくりと風間に近寄っては、目の前で腰を下ろした。

/ 359ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp