第1章 檻
「挨拶はいい。それより、お前に大事な話がある。……東国を統括していた『雪村』が滅んだ」
「……っ!? どういうことですか!?」
「落ち着け、子である雪村千鶴……死体はまだ見つかっていない。奴を引き取ったらしい雪村家分家、雪村綱道共に消息を絶っている。手がかりを掴んではいるが、今はなんとも言えん。そこで……本来風間家では雪村家の女鬼である雪村千鶴を妻に迎える予定だったが、このままではそれも為せぬ」
「つまり……」
「大四家の決定だ。西国蓮水家直系、濃い純血の女鬼であるお前を急遽、俺の妻として迎え入れることとなった」
「私が……ですか?」
志摩子は目を丸くし、驚きで見開いた。
「何をそこまで驚く必要がある? 当然の結果だろう」
「私よりも、千姫様の方が適任では? 西の姫と呼ばれているお方、千景様に相応しい方かと……」
「お前は俺が嫌だと、そう申すのか?」
「……とんでも御座いません! そうではなく……私のような女鬼で宜しいのかと、思いまして」
「それはお前なりの謙遜か? ならばそんなものは不要だ。だいたい、あの西の女鬼は個人的に好かん。何もかもを見通しているつもりで、結局は何も出来ぬし自らの姫という立場に驕っているように見える」
「千姫様はけしてそのようなお方では……っ」
「俺はお前がいい、と言えばお前は納得するか?」
「……っ」
風間の手が志摩子の顎を掴み上げる。綺麗な紅蓮の瞳の中に、自分の姿を見つけて志摩子は恥ずかしさからどうにかなってしまいそうな思いだった。