第1章 檻
「男の背中には、何があると思いますか?」
一人の少女が、問う。その言葉に意味はあるのか、ただの言葉遊びなのか……それは少女にしかわからない。それでも男は答えるだろう。
白い桜の花びらが舞い落ちる。冬は融け、春が訪れた証拠だ。
「武士の背にあるものとすれば、傷か?」
少女はくすっと笑う。
「違います。女の手によってつけられる、爪痕です」
夢の跡が此処にある。これは、少女が見た男達との儚く脆いお伽噺。いや、お伽噺にするには足りないくらいに……痛くて熱い、心の奥が燻られるような物語であろう。
◇◆◇
元治元年一月のこと。少女は一人、屋敷の庭に咲く白い桜を眺めていた。
「綺麗……」
風によって舞い散る桜の花びらを掌で受け止めて、嬉しそうに微笑んでいた。柔らかな一時を過ごす中、慌ただしい足音が少女の元へと近付いて来る。