第23章 華
「ん? その女! 先程の芸妓だな!? もしや忍者っ。貴様その女を連れていくつもりか!!?」
「むっ……大切なお嬢様を取り戻すべく、参った次第。渡すわけにはいかぬ!!」
山崎は咄嗟に志摩子の手を引き、廊下を走り始める。当然背後からは「待ちやがれ!!」と男が追いかけてくる。
「山崎様! 忍者とはどういうことですか!?」
「説明は後です、志摩子お嬢様」
「お、お嬢様……?」
完全になりきっていた。
「一旦、こちらにっ」
山崎に手を引かれ、二人は近くにある部屋に適当に入った。追いかけて来た男もまた、すぐに飛び込んでくる。
「大人しくその女を渡せ!」
「や、山崎様……っ」
「……俺が必ず、貴方をお守りします」
山崎が志摩子を一瞥する。一瞬、色々と忘れてしまいそうになるがその言葉だけを素直に受け止めると、なんだか無性に恥ずかしい気分になるのを志摩子は感じていた。
そう、これが……お嬢様とそれをお守りする忍者という設定でなければ。
「山崎流忍法、畳替えしッ!!!」
「ぐあああああッ!!?」
見事な畳替えしが男に当たった。あまりにも見事過ぎて、志摩子はぽかんとしていた。
「何をしているのですお嬢様! 此処は俺が何とかします。だから今のうちに、お逃げ下さい!!」
「えっ、あ……はいっ」
仕方なくその場を彼に任せ、志摩子は再び廊下を走り出した。風間に教えてもらった通りに進めば、ようやく裏口が見える。
外へと飛び出せば、見慣れた者の姿があった。