第23章 華
「千景様、着替えて参りました」
いつも通り髪を下ろし、琥珀色の髪がゆらゆらと着物の上を流れ落ちる。風間は満足そうに彼女を見ると、手を伸ばした。
「やはりお前には紫の着物がよく似合う」
「……はいっ」
風間の手を、志摩子は迷うことなく取った。だが風間が次に口にした言葉を聞いて、志摩子は言葉を失うこととなる。
「この部屋を出て、廊下を右奥に道沿いに進め。そうすれば裏口に着くはずだ」
「……千景様は共に来られないのですか?」
「勘違いしてもらっては困る。俺はお前を迎えに来たわけではない」
「あ……。そう、なのですね」
「そんな悲しそうな顔をするな。今はまだその時ではないだけだ。いずれまた……会うだろう」
風間は襖を開けて、志摩子を廊下へと出した。
「行け」
「……はい。また、本当に会えますでしょうか?」
「鬼は一度交わした約束は守る。必ずお前を迎えに行く、約束だ」
「……わかりました」
志摩子は廊下を駆けていく。彼女の背を見つめながら、風間は溜息をついた。
「約束……か」
何処か自嘲気味に笑っていた。
志摩子が廊下を走っていると、突如目の前に黒い服を着た変な男が現れた。
「え!? あ、え!!?」
「ん……? その声は、志摩子君か?」
「あ……っ、もしかして山崎様ですか?」
「ああ、そうだ。そして俺は今、忍者だ」
「え……っと?」
志摩子は話が読めない、とばかりに山崎を凝視する。すると、また別の男が慌ただしく現れた。