第23章 華
「志摩子、そこで何をしている?」
「歳三様……。いえ、ただ空を眺めていただけです。お話は終わられたのですか?」
「ああ……。そのことについて、お前に頼みたいことがある」
「何でしょうか」
「お前に、島原に内偵を任せたい。勿論危険もある、強制はしない。俺としてはお前に……」
「わかりました。その任務、お引き受けします」
「……万が一ということもある」
「万が一はいつにだって、あり得ることです。今回に限ってことではありません」
志摩子は立ち上がると、真っ直ぐ土方を見た。少しだけいつもとは違って、逞しさを含んだ瞳に土方はただ苦笑いを浮かべることしか出来ない。いつの間にかこんなにも逞しくなっていたのかと、そう知った時少しだけ寂しくも思えた。
自分の知らない志摩子が、どんどん先を歩いて行ってしまいそうな気がしたのかもしれない。
「お前と千鶴に、今夜島原にて内偵を命ずる。もしものための俺達の誰かが、様子を伺いに潜む。何かあれば頼れ」
「わかりました」
こうして陽が落ちた後、志摩子と千鶴は二人で島原にて内偵を行うこととなる。
◇◆◇
「初めまして、君菊どす。今日は大変やと思いますけど、よろしゅう」
「こちらこそ、宜しくお願いしますね。君菊様」
千鶴は千姫に着物を選んでもらっている最中。志摩子は一足先に君菊という女に着付けをしてもらっていた。淡い桃色の着物に帯は金色。いつもは紫の着物をを着ているせいか、雰囲気が一変する。綺麗な簪で着飾り、結上げた姿はまさに何処からどう見ても芸妓の娘だった。
着物を選び終えた千鶴は、それを手におずおずと君菊に尋ねた。