第23章 華
「あ、あの……芸妓さんって舞とかお三味線が出来ないといけないんじゃ」
「それなら心配しはらんでも大丈夫どすえ。御酌だけで結構どす」
次は千鶴が着付けをしてもらう。赤い着物に群青色の帯、いつもは男装姿のせいか一番の変化を見せる。芸妓姿の千鶴に、その場にいた誰もが感嘆の息を漏らした。
「わぁ! やっぱり千鶴ちゃんその服似合う!!」
「ありがとう、お千ちゃん。でも志摩子さんには負けちゃうかも」
「何を仰いますか。千鶴様もとても綺麗ですよ」
「やっ、やめて下さい! 照れます……」
女性同士特有の会話を繰り広げながら、時間は刻々と迫っていく。
「そろそろ行きますかえ」
君菊に連れられ、二人は緊張しながらも店へと出ていく。廊下を歩きながら、様々な芸妓とすれ違い会釈する。けして普段では見ることの出来ない光景に、志摩子は思わず辺りを見回す。
「ここどすえ」
案内されて襖を開ければ、そこには既に例の浪士達が酒を飲み楽しげな笑い声を上げていた。
「お? 見慣れない芸妓だな」
「はい。先日入ったばかりの子ばかりどす、どうぞ可愛がってくださいまし」
君菊と共に、二人も頭を下げる。そうして二人は緊張の中、君菊と共に部屋の中に入り。早速お酌を始める。そんな中、やはり避けては通れない道とやらも出てくる。浪士の一人が声を上げた。
「おい新人、あんたら何か芸は出来ないのか?」
「そうだそうだ! 何かやれ!」
一人がそう言い出せば、次から次へと芸を求める声は飛び交う。千鶴は顔を真っ青にして、どうしようと焦り始める。しかし、そんな中……志摩子が立ち上がった。