第23章 華
――慶応二年十二月。
巡察から帰って来た原田と千鶴は、土方と近藤の元を訪れていた。
「土方さんに近藤さん、実はその……千鶴の知り合いの子から聞いた話なんだが、例の島原の」
「……あの件か。それがどうした」
「やっぱり屯所を襲うだとか、物騒な話が聞こえてくるって話だ。そこで、俺にちと提案があるんだが……このままじゃ事態は進展しない一方だ。いっそ、千鶴と志摩子を島原に潜り込ませてみたらどうだろうか?」
「二人をか? だけどよ……」
「トシ。俺が言うのもおかしいかもしれないが、それは名案じゃないか? 進展がないのは事実だ
。このままだと浪士達を逃がしかねない」
「そうは言うけどよ、近藤さん。千鶴は百歩譲っていいとしても……志摩子は駄目だろう」
土方は眉間に皺を寄せ、千鶴へと視線を向ける。お前も同意しろ、とでも言いたげに。
「だけどさ土方さん。千鶴は一応男として此処にいるんだ、何かあって隊士達にばれたらどうする? そういう危険を軽減できるとすれば、やっぱり志摩子しかいないだろう。別に俺だって意地悪で志摩子をと提案しているわけじゃねぇ」
「……そんなことわかってる。だがな、志摩子が何かあった時のことを考えてみろ。それこそ危険が大きすぎる。だったらせめて、千鶴に行かせるべきだ」
「でもよ……だからって千鶴一人ってのもそれはそれで危険だろう? 志摩子がいれば、助け船も出してくれそうだし何より千鶴よりしっかりしてる。そこまで危険だとは思わないが」
「あの……原田さん、さりげなく私がしっかりしていない、と言うなんて酷いです」
千鶴は一人苦笑いを浮かべた。悪い悪いと笑う原田だが、まったく反省の色は見られない。すると意外な人物がその場に顔を出した。