第3章 霧
「ったく、これだから箱入り姫さんは……。んじゃあ、俺はあいつらの様子でも見てくるか」
不知火はすぐに部屋を出て行った。天霧はそのまま部屋に残り、腰を下ろす。
「志摩子さんは、どうして風間と共に都へ来ようと思われたのですか?」
「え……?」
まさか天霧にそんなことを聞かれるとは思っていなかった志摩子は、一瞬動揺するがすぐに微笑みながら答えを返す。
「そうですね……私を、あの屋敷から連れ出してくれたから、からもしれません」
「と言いますと?」
「私に、自らの道を選び取るという生き方はありませんでした。そしてこれからも、そんな日は訪れないと……そう思っておりました。しかし千景様は、私の前に姿を現し選ぶ生き方を教えて下さいました。私はそんな彼と、出来るだけ同じものが見たくなったのかもしれません」
「志摩子さんは、風間に惚れているのですか?」
「惚れ……?」
志摩子が首を傾げると、すぐに天霧は「いえ、何でもありません」とその話題を終わらせる。天霧がちらりと様子を伺った風間はというと、興味なさげに外を眺めていた。
突如、池田屋全体がざわざわと慌ただしい音に満ちていく。
「始まったか」
「千景様……? あ……ッ」
「お前は此処に居ろ」
風間は志摩子の手を引いて、押入れを開ける。その中に彼女を押し込むと、すぐに戸を閉めた。