第22章 遙
「可愛らしい猫さんですね」
微笑ましいとばかり、にこにこと土方と猫を見つめる志摩子。もうどうにでもなれ、と男三人が心の中で呟いたのは此処だけの話。
「おい猫、すまねぇな。魚はくれてやる代わりに、屯所から出ていってくんねぇか?」
「にゃあ」
まるで土方の言葉を理解しているかのように、猫は小さく鳴くとすぐに土方の腕の中から出ていった。そのまま器用に塀を飛び越え、猫は姿を消した。
「なんで土方さん猫を逃がしちゃったわけ!?」
「うるせぇ! お前らさっさと戻れ! 俺の分の魚を引けばいい。わかったら行け」
「魚でしたら、私の分を引いて下さい。歳三様はちゃんと沢山食べないといけませんよ」
「あ? 志摩子こそ、食が細いんだからもっと食え」
「土方さんも志摩子も、頑固だよな。本当の兄妹みたいだよな、そういうとこ」
平助が楽しそうにそう言うと、土方と志摩子は互いを見つめ合う。そういえば屯所内では兄妹ということで通している。勿論違うことは幹部達にはわかっていることだが。
「ああもう、うるせぇな! とっとと散れ」
土方がそういうと、山崎と平助は厨房へと戻っていく。だが一人、斎藤だけはその場に残っていた。
「斎藤、まだ何か用があるのか?」
「志摩子に用があるので、お借りしてもよいでしょうか?」
「……構わねぇよ」
土方はちらりと志摩子を見るが、ふっと笑って場を離れた。