第22章 遙
「……美味い団子屋を知ってる。どうだ?」
「えっと……こういう時は、受けるべきなのでしょうか?」
「んなもん自分で決めろっ!!」
「で、ですよね……」
志摩子がははっと乾いた笑いを浮かべた後、どちらも言葉を失い黙り込んでしまう。どうしてだろうか、その沈黙が余計に互いの緊張を煽る。
そんな中、足音が不意に二人へと近付いて来る。
「副長、此処にいたのですね」
「ん……斎藤か」
斎藤も今日は隊務がない休みの日なのか、髪を下ろし肩に手ぬぐいをかけていた。もうその姿だけで、志摩子は全てを察した。
「もうっ、一様まで濡れたままそんな恰好で……!」
「な……っ、志摩子何をする!?」
「そこに座って下さい。私が拭いて差し上げますから」
「い、いらん! やめろ……っ」
相変わらず土方と同じように強引に座らせると、今度は斎藤の髪を拭き始める。拍子抜けするような光景に、土方は思わず吹き出した。
「ふ、副長! 見てないで志摩子になんとか言ってやって下さい!」
「諦めろ斎藤。今の志摩子には何言っても聞きゃしねぇ」
「ところで一様、歳三様に用があったのでは?」
「ああ、そうだった」
志摩子に髪を拭かれながら、斎藤は土方へと本題を切り出す。
「大変です。昼食用の魚が盗まれました」
「は……?」
土方と志摩子を顔を見合わせ、一体どういうことだと二人して斎藤を見た。